Searching for the Young Soul Rebels

音楽、映画の話題を中心に、自身が経験した病や離婚について、はたまた離れて暮らす息子のことなど、徒然なるままに書いていきます。

帰る場所なんてないんだよ。~サニーデイ・サービス「苺畑でつかまえて」に寄せて

曽我部恵一が2014年末にリリースしたシングル「bluest blues」はご存知だろうか? 真冬の午前3時に街を徘徊する男の歌だ。「今頃あの娘はどこで何してんの?」。そんなことを考えながら、でも何もできずに駅前で途方にくれてたたずむ男。彼は終盤こんな風にもつぶやく。誰に向かって? 神に? 「教えてください幸せのありか そしたらそろそろ部屋に戻るから」。でも知ってる。そんなことつぶやいても誰も教えてくれないことを。そもそも幸せなんてありもしないことを。だから、彼が部屋に戻ることなんてずっとない…。

 

それから約1年経った2016年初頭。今度はサニーデイ・サービス名義で新曲「苺畑でつかまえて」を発表。タイトルを見れば、音楽好きにはわかるだろう。これはビートルズ(というかジョン・レノンかね)の「Strawberry Fields Forever」と、サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」へのオマージュだ。つまりは思春期の終わり、青春時代の終焉。うん、そう聴くことはできるし、再結成後のサニーデイとしては「One Day」に匹敵する名曲だろう。幼年時代の自分、そして友人たちと再会するという、このMVもまさにその通り。いいね。

 

だが、この曲の本質はそこではない。ジョン・レノンが歌ったStrawberry Fieldsというのは「孤児院」のことだ。「永遠に」と歌いながら、そこは決して戻りたい場所ではなく、とはいえ愛着がない場所でもない。大方の人間にとって故郷とはそういうものなのかもしれない。「ライ麦畑でつかまえて」の主人公ホールデンは、まさに曽我部の前作に登場するような放浪者だ。彼は「ライ麦畑のつかまえ役になりたい」と言った。でもさ、そんな人いないよ。君が捕まえてくれるかも?と思ったから、みんな穴に飛び込んだり、生活から逃げてみたりしたんだよ。でも、君はいなかった。どすーんという穴に落ちる音。家から逃げて行方知れずの人。そんなものをずいぶんたくさん見たり聞いたりした。

 

「苺畑でつかまえて」。幻想。絶対に戻れない場所。帰る場所をなくした孤児たち(Orphans)に、曽我部はそれでもこう歌いかける。「苺畑で会えるといいね」。会えないことを知ってるくせに。でも、それでも孤児たちに歌い続けるのが、ロックンロールというものなのだろうか。業なのだろうか。カップリングの「コバルト」では、こんな言葉が出てくる。「深い深い青を見に行こう」。ほら、また深夜だ。街を徘徊する時間だ。bluest blues。帰る場所なんて、本当にもうないんだよ。