Searching for the Young Soul Rebels

音楽、映画の話題を中心に、自身が経験した病や離婚について、はたまた離れて暮らす息子のことなど、徒然なるままに書いていきます。

豊田道倫の壮絶な20年、僕の笑えない日々

豊田道倫のCDデビュー20周年記念作「SHINE ALL AROUND」を聴いた。僕が初めて聴いたアルバムは『SWEET 26』で、もう18年以上も前のことだ。当時の僕は、収録曲「京都旅行」を地で行く生活をしていたさえない学生で、それゆえにギター1本で表現されたその歌の世界にぶっ飛ばされた。当時、彼はパラダイス・ガラージとも名乗っていた。


豊田道倫 CDデビュー20周年記念CM(カンパニー松尾ヴァージョン)

本当であれば、彼の膨大なディスコグラフィーを整理して、ベストソングTOP10でもやろうかなと考えていた。でも、どうだろう。僕にはその作業は不可能だ。僕はいまだこの男と、そしてこの男が作る音楽に、冷静に向き合うことはできない。彼の作る音楽が近すぎるからだ。

 

日本のBECKと評されたジャンクな初期、唯一のメジャー作『実験の夜、発見の朝』のポップさ、代表作『SING A SONG』の静謐さと激しさ、離婚を経た直後の『ギター』や諸作でのどうしようもない重さ、mtvBANDを率いての近年の神がかった佇まい。そのどれもが僕には近い。なかでも、僕に近さを感じさせた一番の理由は、自分と同時期の結婚、出産、離婚という出来事と、授かったのが男児という共通点があったからだ。

 

やはり書き進めても、冷静になれそうにない。

 

シアターPOOで聴いた名曲の数々。下北沢で聴いて涙ぐんだ「小さな神様」。加地等のカバー。加地等の映画のゲストで来ていた曽我部恵一と彼。新宿タワレコで買った『ギター』。そのブックレットを眺めて号泣してしまった飯田橋駅ホーム。「雨のラブホテル」を泣きながら歌っていたら飼い犬が顔を舐めてくれたこと。「そうへい~♪そうへい~♪」の部分を自分の息子の名前に置き換えて口ずさむこと。…こういうことは書いたらきりがない。

 

僕が言いたかったのはそんなことじゃないはず。もっと素直に「20周年、おめでとうございます」ということだ。歌を辞めていったアーティストがたくさんいた。この世から消えてしまった男もいた。なかなか食えない。子供はどんどんどんどん大きくなる。歌でしか(あとはブログやTwitterかな)知りえない、豊田道倫の20年は壮絶と表現すればずいぶん陳腐かもしれない。しかし、20年歌をやる、生きていくというのは、壮絶以外の言葉で形容できない。今の僕は。

 

結婚。父の突然死。出産。別居。離婚。病気。祖母の死。震災。孤独と自由。僕の笑えないこの日々もきっと壮絶だ。

 

『SHINE ALL AROUND』最終曲で豊田道倫はこう歌う。

ぼくはどこに行くんだろう

ぼくの命はいつまで燃える

わけがわからず笑ったよ

また朝が来るなんて

暗くて長いトンネルを歩いてきた。それが当たり前だとも。でも、たしかにこういう瞬間は笑ってしまうもの。もう朝が来ることなんてないと思っていたもの…。ECDが「ECDECADE」でラップしたこんな言葉を思い出す。「とっくに終わったんだって思ってた / 驚いたな50で子持ちだよ」。笑っちゃうかもしれないけど、この世界は、この人生は驚きに満ちている。

 

笑えない日々を経て、壮絶な30年目をまた祝えたら。いいな。

SHINE ALL AROUND

SHINE ALL AROUND

 
SING A SONG

SING A SONG

 
ギター

ギター

 
実験の夜、発見の朝

実験の夜、発見の朝