Searching for the Young Soul Rebels

音楽、映画の話題を中心に、自身が経験した病や離婚について、はたまた離れて暮らす息子のことなど、徒然なるままに書いていきます。

2015年ベストレコード TOP30 「お前、なに聴いてたのよ?」 

日本でも音楽ストリーミングサービス元年だったそうである。Spotifyはまだ開始されていないが、AppleGoogleAmazonという3大企業のそれがローンチしたのは大きい。それに加えて、日本のメジャーレーベルは独自にLINE MUSICとAWAを開始。特にLINE MUSICは公開2日で100万DL。おお!と思ったのもつかの間…無料期間が終わると大半のユーザーは消えた。AWAだってそう変わらない状況だと予測する。これについて、日本は独自の文化すぎるという論調もあるだろう。でも、これって音楽好きにとって歓迎できるサービスなのだろうか? ある部分では歓迎しながらも、どこか醒めた自分がいる。理由はいろいろあるが、「だってワクワクしないんだもん」に尽きるかも。それよりも、こんな島国根性国家でもメジャーアーティストがアナログを売り始め、世界的に見ても前年比54.7%増の売上となり、音楽市場の2%を占めるまでに回復(成長?)したことのほうがアガる。

 

かつてtofubeatsが「水星」をアナログリリースしたときに、新宿で自分の作品を手持ちしてるユーザーを見て、「フィジカルの破壊力すさまじい」とつぶやいた、その言葉にこそ「音楽が好きな人」の良心を感じる。もともと音楽なんて目に見えないもので、ただの空気の振動にしかすぎない。それを無理矢理パッケージ化して売るというのは、単なる商売でしかない。でもね。その「モノ」の破壊力ってやっぱりすごいんだよ。そのことを次の世代にも伝えたいと思うようになった。父が遺したボロボロのレコードの数々がある。ひょっとしたらもう聴けないものもあるかもしれない。ただ、それを手に取ったときの素敵な気持ちを、自分たちの子供世代にも味わってほしい。人間というのはおかしなもので、24時間無料で手に入る「モノ」に対して欲望を抱かない。「○○万曲聴き放題」と言われても、ちょっと途方にもくれてしまう。野田努が書いていたように「満足な音楽体験は量ではなく質」というのは本当に正しい。そして、それぞれの音楽には適正な価値がある。2015年。僕はダウンロードもたくさんしたし、ストリーミングにも希望を抱いたが、それを横目に見つつもアナログを買いまくった。欲望がなくなったら人間おしまい。「モノ」を欲しがらなくなったら経済も終わる。ミニマリストに中指を立てつつ、僕は物欲に忠実に生きていく。

 

と、前段がかなり長くなったが、そんななか2015年のベストレコードを選んでみた。「最近何聴いてるの?」「おすすめは?」とかって聞かれると結構困るので、「2015年はこのへんが良かった」と言えるリストを作っておきたかったのもある。正直かなりイライラしてた。単なるフェス仕様のJ-ROCKバンドたちに。野心のないインディーアーティストたちに。海外の音楽やアートと距離を置きたがる人たちに。ネトウヨに。安倍に。自民党公明党に。まぁ、なにより自分自身に。お前、生きてる意味あると思ってるの? うるせー、わかってるよ。イライラ。そのイライラの根源にあるものを、このレコードたちは否定しなかった。むしろ自分が決して間違っていない、そんなことも感じさせてくれた。

 

同時に悲しいこともたくさんあった。もう2度と会えなくなってしまった人もいた。「NO WAY HOME」。その感覚がリアルに迫ってくる1年でもあった。帰る場所を失った人間に対して、ポップミュージックはとても優しい。孤児を温かく包んでくれる願わくば2016年がほんのちょっと明るい年であるように。あなたが幸せでありますように。眠れない夜を過ごした人を皆で支え合えるように。音楽が決して鳴り止みませんように。ピース。

 

1位 Sufjan Stevens『Carrie & Lowell』

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 2位 cero『Obscure Ride』

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2015年を代表するこの2作品には共通のテーマがある。それは「母の死」「母を亡くした息子」だ。つまり「孤児」ということ。僕にとって、まるで姉妹のようなアルバムだったし、事実そういう聴き方をしていた。また、どちらにも「神」が頻繁に登場する。僕らは神をなくした孤児みたいなものなのだろうか。cero「Orhans」に登場する男女は、決してお互い恋に落ちることはない。なぜなら彼らは姉弟だからだ。そしてそれを神のように俯瞰する彼らのソングライティングに舌を巻いた。死ぬほど美しいSufjan Stevensのファルセットと、不安定ながらも強い覚悟をもった高城昌平のそれ。震えた。絶対忘れたくない人。出来事。ぬくもり。匂い。風景。でも…人はそれをいとも簡単に忘れていく。だから僕らは今日も必死に思い出を作ろうとする。生きていく。そんなことを感じさせた傑作2枚。

3位 eastern youth『ボトムオブザワールド』

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初めて聴いたのは『孤立無援の花』。もう18年も前のことだ。途中、「ちょっともういいかな」と思ったこともあった。それでも新作が出るたびに聴いてはいたが、ふーんって感じだった。だから、まさかまた彼らにここまで心を持ってかれるなんて、ちょっと自分でもびっくり。吉野の心筋梗塞や震災があった。ベース脱退やインディーズに戻る…など紆余曲折もあった。でも、彼らは相変わらずあそこに立ってた。まだあの場所で苦しそうに歌ってた。孤立無援のまま、裸足で。これは奇跡なんかじゃない。意思だ。それがどんなに壮絶で、大変で、また素晴らしいことか。OTOTOYのインタビューで吉野は「この歳になって宛てのない人生をどう生きていったらいいのかなって思うけど、どうせ最後は死ぬだけだから、死ぬまでやるしかないでしょ。まだ生きてるってことが希望だよ」と語っている。ギリギリ。このギリギリ感が今の自分とシンクロしたんだろうか。本当に素晴らしい作品だし、きちんとお金を払って聴いてほしいとも思う。亡き吉村秀樹に捧げたであろう「テレビ塔」、のっけから圧倒される「街の底」、盟友・向井秀徳やcpが参加した「直に掴み取れ」、感動的なラスト「万雷の拍手」と聴きどころ満載。ねえ、こんなバカな男にひとつ投資してみないかい?

4位 NOSAJ THING『Fated

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 LAを拠点に活動する韓国系アメリカ人。トロ・イ・モア、チャンス・ザ・ラッパー、ケンドリック・ラマー…らとコラボを重ねてきた天才。ボーカル曲も、そうでない曲も、全編にわたり悲しみ・喪失が支配している。むせび泣くようなトラックが特徴的。思い出したくもないことを思い出してしまう夜。でも、このレコードはその行為を決して否定しない。チャンス・ザ・ラッパー参加の「Cold Stares」が素晴らしいのはもちろん、ラストナンバーの「2K」にはとにかく心がギュッとなった。泣いてもいいんだよ。

5位 Donnie Trumpet & The Social Experiment『SURF

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2015年にこの作品を聴き逃していたら、それはちょっと人生もったいないレベル。トランペッター、ニコ・セガール時代の寵児チャンス・ザ・ラッパーを中心にしたジャンルレス・グループの一大ポップ作。やっぱカルチャーってSEXが大事。しかもこの作品買えません。フリーダウンロードです。ググれ。

 6位 佐野元春 & THE COYOTE BAND『BLOOD MOON』

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 この国のインディシーンの盛り上がりと、シティーポップ・ブームに後押しされる形で、ここ数年、山下達郎の再評価がすさまじい。でも、この作品を聴いて、いま評価すべきは佐野だろ!と思った。切れ味を取り戻した言葉の数々が君の胸を切り裂く。「誰がマトモに聞くもんか」と権力に唾を吐き、「すべては壊れてしまった」けど、「もう一度好きなように踊ろう」と。「人はあまりに傲慢だ。約束の未来なんてどこにもないのに」。そう、そんなものないのに、あるふりをして人は生きている。弱虫。いつでも佐野の言葉にハッとさせられるし、いつでも鼓舞される。自分もいい年になってきたので、誰かに何かを言われたら「で、君は佐野元春をちゃんと聴いたことはあるの?」と反論していきたい。なんつて。

 7位 Grimes『Art Angels』

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11月に突如配信され、すべてを塗り替えてしまった作品。欧米のベストアルバム記事では軒並み上位。そりゃそうだろう。ここにはポップの可能性のほぼすべてがある。凡庸と先進性、メジャーとインディー、スノッブとオタク、熱狂と孤独…。だからこそちんけなアイコンになって、マイケルやマドンナやガガや…そんな風にならないでほしい。でも、もっと日本で聴かれてもほしい。この引き裂かれる感覚こそポップなのかね。

8位 寺尾紗穂 『楕円の夢』

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日本のインディーシーンが誇る女性シンガー・ソングライターの7作目。アルバムとしては前作「青い夜のさよなら」の方が好き。ではあるが、タイトル曲「楕円の夢」の素晴らしさといったら!「私の話を聞きたいの  あなたと別れてからのこと」で始まるこの曲。ライブで離婚をさらっと告白していたので、それがモチーフになっているのかも。そのとき彼女は微笑まじりだったが、それがどんなに辛いものか…。彼女は「その後」、抜け殻だったり友人に囲まれて笑顔だったりしたそうだ。そのどちらも本当であり、その曖昧さのなかを生きてきた、と。「明るい道と暗い道 おんなじひとつの道だった」と。ただ、この曲は単なる別れの曲ではない。ele-kingのインタビューで語っているように、「楕円形とは真実や正義を否定するメタファー」だ。ノンフィクション作家としての顔を持つ彼女が、数々の現場で見てきた風景、出会った人々。そんな彼女は世界を円ではなく楕円だと表現する。その意味するところは何だと思う? 曲の終盤「明るい道と暗い道  狭間の小道を進むんだ」と歌われる。これは紆余曲折あった世界が辿ってきた道筋でもあり、どちらかに振り切れるのではなく狭間を歩かないと見えないこともあるという、彼女のメッセージでもある。そして、そんな曖昧ながらも辛い道を歩いていくことが、傷を癒やす近道でもあると。2015年に日本で生まれた「歌」で間違いなくナンバーワン。

9位 Sean Nicholas Savage『Other Death

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交流のある同郷のGrimesやMac Demarcoが高い評価を得るなか、この美しくも退廃的な声の持ち主が置き去りにされるのは許せない。トラックは最小限の音数と音量。そこで歌われるちょっと痛い曲の数々。まるでカラオケ。これまた同郷のTOPSやNite Jewelも参加していることから、カナダのミュージシャンズミュージシャンなのだろうか。晴れた朝からSEXしてしまって、一日なにもせずに過ごした夕方の匂い。夜になって襲ってくる死の予感と恐怖。でも、またSEXして逃げるしかない。そんな光景を思い出す。ボサノバの名盤の数々、そしてLeonard Cohenのファーストの横に並べたい、甘くエロく逃避的なアルバム。

10位 JAMIE XX『In Colour』

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The XXの頭脳による初ソロアルバム。静謐なハウス。「悲しみがないとサンバではない。悲しみながら踊るのだ」。そんな言葉を思い出す。いつぞや見たThe XXのライブは完璧すぎて、逆にその無機質さが物足りなかった。が、今作はどうだろう。ジャケの世界観同様、ちょっとキラキラしてる…!ちょっとね。あ、なんかカッコイイじゃん、と手に取ってくれる若者が一人でも多くいますように。是非、日本盤をゲットして名曲「All Under One Roof Raving」もどうぞ。

11位 tha BOSS『IN THE NAME OF HIPHOP

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「ここからだと 煽っていくのがラッパーしょ」とのライム通り、とにかくアガる。とはいえ、40歳過ぎた男の感傷や現実を感じもさせ、そこがまた新たな魅力ともなっている。かつてディスの対象だったはずのYOU THE ROCK★を召喚して「もはやこれまでって思う時もあったさ」と語らせる。DJ KRUSHとのナンバーでは、あれ(ラフラの死)から16年経ったことを思い出させた後に、「未来が俺等を待ってる」とラップする。HIP HOPやTHA BLUE HERB、もちろんBOSSに何がしかの思いを託してきた人なら、興奮と涙を禁じ得ない作品だ。僕の背中をひたすら押してくれたこんなフレーズで本稿を閉じる。「出会いすれ違った人は数知れず 行方も知れず ろくに告げもせず」「どうか留まってって親切を断って 背中で聞くのさ 何故そこまで あの世の一駅手前のこの世だぜ 肉体を使い切り骨しか残さねえ」。

12位 Benjamin Clementine『At Least for Now』

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ニーナ・シモンやアントニー・ヘガティーとも比較される、詩人&ピアニスト&シンガー&作曲家。日本での知名度は低いけど、2015年の英マーキューリ賞の受賞作である。ポップミュージックが文化として根付いている英国の懐の深さを感じる。日本だと賞獲るのEXILE系とかジャニーズだしなぁ…。元ホームレスという肩書のせいもあるのか、どんなに壮大な曲でも「ストリート」を感じさせる。つまり市井ということ。これからもっともっと大きくなるであろう才能に注目したい。

13位 ROTH BART BARONATOM

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テーマは「電気」「原子力」「革命」「帝国の崩壊」。その壮大すぎる歌詞世界とメロディーは、日本で比類するものはないと断言したい。物語の形をとりながら、世界で起こるさまざまな不条理をあぶりだす。彼らがスモールサークルながら、海外でも支持者を増やしていることは素直に希望だ。ハイライトナンバー「X-Mas」において、帝国が崩壊していく様子を描写した後に続く歌詞。「君はここで生き延びて 新しい街を作るんだよ やりたいことを やりたいように やりたいだけ やってしまえよ もしも世界がつまらないのなら 滅ぼしてしまってもいいよ」。こんな歌が大晦日のNHKから響いて来たら、救われる魂はもっとあるはず。涙。

14位 尾崎友直『メネ, メネ, テケル, ウ パルシン』

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アナログオンリーでリリースされた3枚目のアルバム。ヒップホップとポエトリーとパンクの間のなにか。ここで彼は自らの信仰と、それがもとで離ればなれになってしまった家族への愛を赤裸々に話す。日本人にとって宗教はタブー視されがち。でも、誰だって何かに依存したり、何かを信じたりして生きている。それが仕事だったったり、家族だったり、趣味だったり、ドラッグだったり、神だったり。そこに大差なんてない。イマジネイティブな言葉の数々と、ふとした瞬間に出現するリアルなワード。大切なものをなくし続ける自分は、それを聴いて素直に祈りたくなった。それがたとえ、彼が信仰する神とは違っていても。

15位 BRIAN WILSON『No Pier Pressure』

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The Beach Boysの最新作『That's Why God Made the Radio』が素晴らしかったので、ひそかに期待してたレコード。結果、これがもう本当にすてきなポップアルバム。孫世代とコラボしてるから古臭くない、というわけじゃないぜ。ブライアンのメロディーが時空をこえたものだからだぜ。ウキウキするけど、やっぱ切ない。もう70すぎの爺さんだぜ、これ。脱帽。

16位 鴨田潤『ひきがたり2』

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イルリメとしてより、最近は(((さらうんど)))での活動がメインだった鴨田潤の久々の弾き語り作。Evisbeatsに提供した「いい時間」を始め、感傷的な青春ソングが6曲。今年いちばん涙腺にきて、もう二度と会えない人々を思い出させた作品かも。帰りの電車のなかでよく聴きました。

17位 Toro Y Moi『What For?』

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もはやチルウェイブ、インディーR&B云々の文脈じゃなく、世界最高峰のポップソングとして語られるべき作品。最初に聴いたときの感想は「ビートルズみたい」。それが、エッヂを失くしたととらえる向きもあるかもしれないが、いやいや、これは彼が歴史とより密接につながろうとした結果なのでは。

18位 TAME IMPALA『Currents』

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 ただのオージー・サイケバンドなんかじゃなかったと再認識させる作品。あまりに折衷的で、もはやバンドでやるべきことなのか?とすら思う。これが世界的に評価されるなら、ceroも海外で高い評価を得てもおかしくない。というか、されるべき。

19位 GIRL BAND『Holding Hands With Jamie』

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ダブリン出身の4人組。ラフトレードの一押し。バンド名とは裏腹に、なんだこの粗野な感じ。絶対、行儀良くない。SEXすごそう。「ファッション行儀良くない」日本の一部のバンドに爪の垢を煎じて飲ませたい。そうお前らだよ、幕張メッセあたりでやってるお前ら。いま一番ライブを見たいロックバンドかも。

20位 Lantern Parade『魔法がとけたあと』

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傑作『夏の一部始終』に続く、バンドスタイルの作品としては2枚目。2015年は『かけらたち』(高城昌平の年間ベストに入ってた)に続く2枚目のリリース。僕は断然こっちのほうが好き。誇り高い言葉と、それを支えるバックメンバーとのケミストリーが半端ない。

21位 どついたるねん『生きてれば / 精神』

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東京インディーが誇る最高のパーティーバンドによるシングル。「生きてればいいことある」とか笑っちゃうぜ。「精神、精神、ぼろぼろー」とか、もうね。プロフィール調べたら、みんな自分より年下でまた笑った。最高です。で、君は誰推し?

 22位 ERA『LIFE IS MOVIE』

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BOSSを除けば、この作品が一番よく聴いた日本のHIP HOPかも。醒めた日常と払拭できないブルーズ。でもね、なにも諦めちゃいないんだ。「捧げる同じような奴らへ 2度目はないようなこんなLIFE」。止まってはいけないんだよ。

23位 シャムキャッツ『TAKE CARE

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三人称を駆使して物語るこの作品の魅力は、青春ゾンビさんのすてきなエントリーに譲りたい(シャムキャッツ『TAKE CARE』 - 青春ゾンビ)。しかしcero「Orhans」も三人称だった。この国が誇る若き才能のシンクロは偶然か、それとも時代の必然か。もっともっと良くなる、未来を見てみたいと素直に思えるバンド。

24位 XINLISUPREME『始発電車 The First Train』

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10年ぶりながら高評価を得た『4 bombs』から3年ぶりとなる新作。文字通り鼓膜が破れそうなノイズだらけだった前作に比べると、ちょっと物足りない印象を持つ人もいるかも。でも、ここには怒りがある。ノイズでごまかせないはっきりとした怒り。そして愛。「始発電車」で歌われる「国を追われた人の気持ちがちょっとだけ分かった」という言葉。テロ、難民、経済格差、ヘイト、戦争法案…、2015年を覆ったどん詰まり感に対して、彼らは大文字のラブソングで対抗する。突如YouTubeで発表された「I Am Not Shinzo Abe」と、若者たちが政治的行動をする姿に、自分を恥じる気持ちになって久々に国会前に行ってみた。「どうか、眠れない夜を過ごした人を皆で支え合えるように」。じゃなきゃ世界なんて滅んでもいい。

25位 Tobias Jesso Jr.『Goon

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2014年末、このクシャクシャ頭のピアノマンの「How Could You Babe」を初めて聴いたときの高揚感といったら…!アデルの比ではなかった。シンプルすぎるメロディーと言葉を敬遠する人もいるだろう。でも、僕がポップミュージックに求めるのはこのドキドキ感でしかないのだ。何に関しても初期衝動なんてとうに消えたよ。でも佐野元春ならこう言うだろう。「いや、君、それは違うんだよ」と。HEATWAVE山口洋に話したという佐野のこんな言葉が今も頭から離れない。「まもなく50になるけど、何回目かの思春期が訪れようとしているんだ。男は何回も思春期がくるぞ」。she said i'm ready for the "blue"♪ うん、ブルーになる準備はできてるんだ。

26位 Kendrick Lamar『To Pimp a Butterfly』

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音楽メディアの年間チャート総なめの作品である。Alabama Shakesと並んで2015年を代表する1枚だと思う。黒人のやるヒップホップというと、どうしても日本人には敬遠されがち。ただ一昨年ライブで見た彼は、やや背丈が小さい普通の青年だった。虐げられた歴史をもち、決して見過ごせない政治的話題を横目で見つつ、仲間と音楽を愛し、それをアートとして昇華する。冒頭「Every nigger s a star」というサンプリングだけであがる。太陽がない、星が見えないと嘆くなら、君がそれになればいい。

27位 KOHH 『DIRT』

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カニエの新曲を聴いて「あーKOHHっぽいな」なんて思ってしまうこの頃。逆だろ!という突っ込みはいらないです。たぶん、これが英語のラップでも気持ちよく聴いていられる。付属のDVDは見た? タトゥーだらけ、チャラそう、悪そう…。うん、だってKOHHだもん。嫌なら聴かなきゃいいよ。過去アルバム「MONOCHROME」「梔子」に比べても、かなりシリアスな世界観。迷いも素直に吐露している。その言葉の強度と説得力が支持されるゆえんか。1曲目の「Be Me」の独白、「死にやしない」のエキセントリックなライム。これを面白い、やばいと思えない人とは音楽の話はできないかも。

28位 Chilly Gonzales 『Chambers』

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FEISTとの仕事でも知られる天才音楽家。話題を集めた「SOLO PIANO」「SOLO PIANOⅡ」を踏襲、さらにクラシック要素を強めた作品。今回はピアノと弦楽四重奏。アナログで入手したので、とにかく眠る前によくかけた。どこかサティっぽい。クラシックというと敷居が高いイメージだが、これはそんなことはない。生活に密着した音楽。さらりとも聴けるし、じっくりヘッドホンでもOK。なんでも1曲目はバッハとダフト・パンクに捧げてるらしい! 彼自ら「正真正銘泣ける曲」という「SWEET BURDEN」は、坂本龍一ぽい切なくも重厚なナンバー。「人は誰しも背負わなければいけない重荷を抱えているが、もしかしたら音楽だけがそれを和らげられるのかもしれない」。うん。僕らは本来、自由だ。僕らはその内側にいなくてもいいし、外側にいなくてもいい。クラシカルな曲が多いが、僕が彼の音楽から感じるのはその「自由さだ。

29位 NOT WONK『Laughing Nerds And A Wallflower』

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この国の地下で起こっている新たな世代の新たなパンクムーブメント。元銀杏の安孫子真哉が立ち上げたKiliKiliVillaから、今作をリリースしたまだ10代の3人組は、まさにそれを代表する存在だ。I Hate Smoke Tapes、生き埋めレコーズというレーベル名。CAR10やTHE FULL TEENZ、THE SLEEPING AIDES&RAZORBLADESというバンド名を覚えておいて損はない。インタビューで語られていた「おれサッカー部大嫌いなんです」「無理してEXILE聴かなくていい」という言葉は、10代のバンドボーカルの正解みたいな発言だ。支持。

30位 Leon Bridges『Coming Home』

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こいついったい何歳だよ!と調べたら25歳。マジか。1960年代のソウルレコードと言われても違和感ない。ないのだが、まったく古くはない。「古くはない」というのが2010年代の大事なキーワードなら、これも生まれるべくして今生まれた作品なのかもしれない。サム・クックはとうにいないけど、もし深夜のレッドマーキーで、Leon Bridgesが拳を握りしめて歌ってくれたら…!

次点 Pizzicato One 『わたくしの二十世紀』

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小西康陽によるソロ。前作がまったくピンと来なかっただけに期待してなかったんだけど…。Pizzicato Five時代の曲を多彩なゲストを迎えてセルフカバーした今作。これが、震える。「One」という言葉には、ひとりで聴いてほしいという意味もあるという。フェス向けの仰々しい音楽が増えるなか、いかにも「らしい」。全編に渡って「死」「悲観」「諦念」が覆っていて、かなり痛々しい。でも、これだよこれ。「ゴンドラの歌」で、かまやつひろしの後に聴くことができる小西さんの声がとにかく素敵。「ぼくはたぶんもうすぐ死ぬのかね 別に悲しくなんてないよ」。ジャケも素晴らしい。

 

Carrie & Lowell

Carrie & Lowell

 

 

Obscure Ride 【通常盤】

Obscure Ride 【通常盤】

 

 

ボトムオブザワールド

ボトムオブザワールド